「昔は花粉症なんてあまり聞かなかったのに…」と感じる方もいるかもしれません。近年、花粉症の患者数が増加している背景には、花粉飛散量の増加だけでなく、私たちの生活環境の変化も影響していると考えられています。そして、特に子供の頃の環境が、将来花粉症になるかならないかを左右する要因の一つになるのではないかという説があります。その代表的なものが「衛生仮説」です。これは、乳幼児期に細菌やウイルス、寄生虫といった様々な微生物に触れる機会が減少し、衛生的な環境で育つことが、かえってアレルギー疾患を発症しやすくするという考え方です。本来、私たちの免疫システムは、様々な微生物と接触する中で、異物に対する適切な反応の仕方を学習していきます。しかし、過度に清潔な環境では、この学習の機会が減少し、免疫バランスがTh2細胞(アレルギー反応を促進する細胞)優位に傾きやすくなり、花粉のような本来無害なものに対しても過剰に反応してしまうようになるのではないか、というのです。例えば、農村部で家畜などと接して育った子供は、都市部の子供に比べてアレルギー疾患が少ないという研究報告もあります。また、兄弟姉妹が多い家庭の子供や、保育園などで集団生活を早くから経験した子供の方が、アレルギーになりにくいというデータも見られます。これらは、多様な微生物との接触機会が影響している可能性を示唆しています。さらに、食生活の変化も影響していると考えられます。伝統的な和食から、高脂肪・高タンパクな欧米型の食生活へと変化したことや、加工食品の摂取増加などが、腸内環境の変化を通じて免疫システムに影響を与えている可能性も指摘されています。もちろん、これらの環境要因だけで花粉症の発症が決まるわけではありませんが、子供の頃の生活環境が、免疫システムの形成に重要な役割を果たし、将来のアレルギー体質に影響を与える可能性は十分に考えられます。