風邪をひくと、熱や鼻水、咳といった症状と共に、「喉がイガイガする」「ムズムズして痒い」という、何とも言えない不快な感覚に悩まされることがあります。喉の痛みとはまた違う、この「痒み」は、一体なぜ起こるのでしょうか。そのメカニズムを理解すると、適切な対処法が見えてきます。風邪で喉が痒くなる主な原因は、大きく分けて二つ考えられます。一つは、ウイルスや細菌と戦う過程で起こる「免疫反応」そのものです。風邪のウイルスなどが喉の粘膜に侵入すると、私たちの体はそれを異物として認識し、撃退するために免疫細胞を送り込みます。この免疫細胞が、ウイルスと戦う際に「ヒスタミン」などの化学伝達物質を放出します。このヒスタミンは、血管を拡張させたり、知覚神経を刺激したりする働きがあり、アレルギー反応の主役としても知られています。このヒスタミンが、喉の粘膜にある神経の末端を刺激することで、「痒み」として感じられるのです。つまり、喉の痒みは、体がウイルスと戦ってくれている証拠、一種の防御反応のサインとも言えるのです。もう一つの大きな原因が、「喉の乾燥」です。風邪をひくと、鼻詰まりによって口呼吸になりがちです。鼻呼吸であれば、吸い込んだ空気は鼻の粘膜で加温・加湿されますが、口呼吸では冷たく乾いた空気が直接喉の粘膜に当たり、粘膜を乾燥させてしまいます。また、発熱によって体内の水分が失われることも、喉の乾燥に拍車をかけます。喉の粘膜は、潤いを保つことで外部からの刺激を守るバリア機能を持っていますが、乾燥するとこのバリア機能が低下し、非常にデリケートで敏感な状態になります。そこに、わずかなホコリや空気の流れといった刺激が加わるだけで、ムズムズとした痒みを引き起こしてしまうのです。さらに、咳やくしゃみ、鼻水が喉の奥に垂れ込む「後鼻漏(こうびろう)」も、喉の粘膜を物理的に刺激し、痒みの原因となります。このように、風邪による喉の痒みは、免疫反応、乾燥、物理的刺激といった、複数の要因が複雑に絡み合って生じる、不快な症状なのです。