救急センターの最前線で多くの頭部外傷患者を受け入れている立場から申し上げると、頭を打った際に病院へ行くべきかという問いに対して、私たちは常に「少しでも不安があれば迷わず来てください」と答えています。しかし、実際には緊急性の高いケースと、比較的落ち着いて対応できるケースが存在するのも事実です。救急医が最も警戒し、即座に処置が必要だと判断するサインについてお伝えします。まず第一に、意識レベルの変化です。受傷直後に名前が言えない、今どこにいるかわからない、あるいは指示に従えないといった意識の混濁がある場合は、脳内の広範な損傷や出血が進行している可能性が高く、1分1秒を争います。第二に、痙攣(けいれん)の発作です。頭を打った後に手足がガクガクと震えたり、白目を剥いたりするような症状が出た場合は、脳の電気信号が異常をきたしており、緊急の治療が必要です。第三に、瞳孔の大きさに左右差がある場合です。これは脳圧が極端に高まり、脳神経を圧迫している典型的な所見であり、外科的な介入が必要になるケースが多いです。第四に、耳や鼻から無色透明な液体、あるいは血の混じった液体が流れ出てくる場合です。これは頭蓋骨の底の部分が骨折し、脳を包んでいる脳脊髄液が漏れ出している可能性を示唆しており、感染症のリスクも含めて非常に危険な状態です。これらはいわゆる「レッドフラッグ」と呼ばれる、迷わず救急車を呼ぶべき症状です。一方で、受傷直後は元気であっても、後からじわじわと症状が悪化する「トーク・アンド・ダイ(Talk and Die)」という現象にも注意が必要です。これは、一時的に意識がしっかりしている間に脳内での出血が進行し、ある時点を境に急激に容体が悪化することを指します。これを防ぐためには、受傷から数時間は、激しい運動や頭を振るような動作を厳禁とし、家族などの同伴者が常に意識の状態を監視することが不可欠です。病院を受診した際、私たちはCT検査を行うかどうかを、受傷の状況(高いところから落ちた、時速何キロで衝突したかなど)や、患者さんの基礎疾患(糖尿病や高血圧、抗凝固療法の有無)を総合的に判断して決定します。頭部CTは放射線被曝の問題もありますが、重大な出血を見逃さないためには不可欠な検査です。もし、あなたが病院へ行くべきか迷い、ネットで情報を探している間にも、頭痛がひどくなったり吐き気が強まったりしているなら、それはすでに受診のタイミングを過ぎているかもしれません。命に関わる判断を自分一人で行おうとせず、医療のプロフェッショナルを頼ってください。私たちの仕事は、皆さんの「大丈夫だろうか」という不安を、医学的な根拠に基づいて「大丈夫です」に変えること、あるいは必要な処置を迅速に行うことです。
救急医が教える頭部の打撲で受診を急ぐべき危険なサインの見極め方